「このAIに、この情報を入力していいのだろうか」——ChatGPT・Claude・Gemini・Copilot・Grok・そして中国製のKimiやDeepSeekまで、使えるAIの選択肢が増えるほど、この疑問も大きくなります。2026年時点で、各社のプライバシー方針には大きな差があり、「AIだから一律に危険」でも「大手だから安心」でもない、事業者ごとの個別事情があります。主要7サービスの公式な方針を横断的に整理します。
そもそも「個人情報」とは何か
本題に入る前に、「個人情報」の定義を確認しておきます。日本の個人情報保護法第2条第1項では、個人情報を「生存する個人に関する情報であって、氏名・生年月日その他の記述等により特定の個人を識別できるもの」と定義しています。ここには、単独では個人を特定できなくても、他の情報と容易に照合することで特定できてしまう情報も含まれます。
たとえば「30代・営業職」という情報だけでは個人情報に該当しない可能性が高い一方、これに勤務先名や具体的な担当業務が加わると、企業の規模によっては個人が特定できてしまい、個人情報として扱うべき情報に変わる場合があります。氏名・住所・生年月日・顔写真に加え、マイナンバーやパスポート番号のような「個人識別符号」も個人情報に含まれます。
さらに、人種・信条・病歴・犯罪歴などは「要配慮個人情報」として、通常の個人情報よりも厳格な取り扱いが求められ、本人の同意なく取得すること自体が原則として禁止されています。AIに入力する情報を判断する際も、この「単独では特定できないが組み合わせで特定できる」という観点を意識することが重要です。個人情報保護法上の定義に該当するかどうかにかかわらず、AIサービスの学習利用・データ保存という文脈では、より広く「特定の個人や組織に不利益が生じうる情報」全般について慎重な判断が求められます。
結論:個人情報は基本的に入力しないことが推奨される
先に結論を述べると、主要なAIサービスに共通した方向性は「個人情報・機密情報は入力しない」ことです。多くのサービスが会話データを学習・改善目的で利用する仕組みを持ち、削除しても一定期間はサーバー上に残ります。ただし、その「一定期間」「学習利用の可否」「データの保存場所」は事業者によって大きく異なり、この差を知っているかどうかで実務上のリスクは変わります。
主要7サービスの比較表
| サービス | 個人向けの学習利用 | オプトアウトの可否 | 特記事項 |
|---|---|---|---|
| Claude(Anthropic) | オプトアウト方式 | 可(設定でオフ) | 2025年9月に方針転換・保持期間が最大5年に延長 |
| ChatGPT(OpenAI) | オプトアウト方式 | 可(設定でオフ) | 「高評価」を押すとオフでも学習に使われる場合がある |
| Gemini(Google) | オプトアウト方式 | 可(Gemini Appsアクティビティで管理) | 組織のGoogle Workspaceアカウント経由なら学習利用なし |
| Copilot(Microsoft) | 個人向け:学習利用あり/商用(Work・School):なし | 個人向けは一時チャットモードあり | 企業テナントでは既定でAnthropicが処理を担う場合もある |
| Grok(xAI) | オプトイン既定(初期設定でオン) | 可だが2箇所で個別に設定が必要 | Xの投稿データも別途学習に使われる二重構造 |
| Kimi(Moonshot AI・中国) | 不明(consumer向けポリシーに保存国の明記なし。ただしKimi OpenPlatform〈開発者向け〉はシンガポール保存を明記) | 不可(製品内にオプトアウト設定が存在しない) | データの保存場所(国)がポリシー上明記されていない |
| DeepSeek(中国) | あり(明示的に学習利用を許可する記載) | 可(ただし後日追加。韓国当局の指摘を受けるまでは仕組み自体が存在しなかった) | 中国国内サーバーに保存・複数国で政府機関からの利用禁止 |
※本表は2026年6月〜7月にかけて確認された複数の第三者レビュー・各社公式情報をもとに作成した概要です。設定項目の名称や場所は今後変更される可能性があるため、実際に利用する際は各社の最新の公式情報を確認してください。
米国系サービスの詳細
Claude(Anthropic):2025年9月の方針転換
Anthropicは長らく「顧客データを学習に使わない」ことを強みとしてきましたが、2025年8月、この方針を転換すると発表しました。個人向け(Free・Pro・Max)アカウントについて、2025年9月28日までに「モデル改善への協力」設定を選択するよう求め、これを許可した場合、データの保持期間が従来の30日間から最大5年間に延長されるという変更です。この方針転換は複数のセキュリティ専門家・プライバシー団体から「プライバシーの後退」と評されました。ビジネス向けのClaude for Work・APIでは、デフォルトで学習利用が行われない設計です。
ChatGPT(OpenAI):「高評価」ボタンの落とし穴
OpenAIの公式ガイドでは、チャット履歴は削除するまで保存され、削除後もさらに30日間サーバー上に残るとされています。設定(Data Controls)の「Improve the model for everyone」をオフにすれば学習には使われませんが、見落とされがちな注意点として、回答に「Good response(高評価)」のフィードバックをつけると、その会話が個別に学習データとして利用される場合があるとされています。
Gemini(Google):組織アカウントかどうかで大きく変わる
Geminiは「Gemini Appsアクティビティ」という設定画面で、会話の保存・学習利用の可否を管理できます。教育機関・企業のGoogle Workspaceアカウント経由でGeminiを利用する場合、組織の契約に基づき学習利用が行われない設計になっているケースが多く報告されています。個人のGoogleアカウントで無料利用する場合は、この保護が適用されない可能性がある点に注意が必要です。
Copilot(Microsoft):個人向けと商用で扱いが大きく異なる
Microsoft Copilotは、個人向けの利用では学習・パーソナライズに利用される一方、商用(Microsoft 365のWork・School)アカウントでは、プロンプト・応答・Microsoft Graph経由のデータを基盤LLMの学習に利用しないとMicrosoftが公式に明示しています。2025年後半には一時チャット(Temporary chat)モードが追加され、履歴に残さない会話も選べるようになっています。
なお、これとは別のトピックとして、Microsoft 365 Copilotの一部機能(Researcher・Copilot Studio・Word/Excel/PowerPointのエージェント機能など)では、処理の裏側でAnthropicのモデルが既定のサブプロセッサーとして稼働する場合があり、EU・英国のテナントでは既定で無効化されているとする報告があります。これは前述の「学習に利用しない」という原則とは別次元の、処理を担うモデル自体がどのベンダーかという話です。契約内容によって処理の仕組みが変わるため、企業で利用する場合は自社の契約形態を確認することが重要です。
Grok(xAI):複数の管理画面にまたがる設定
Grokは他のサービスと異なり、管理すべきデータの流れが複数の管理画面にまたがっています。データソースとしては、Grok自体の会話データと、X(旧Twitter)プラットフォーム上の投稿・いいね・やり取りのデータという2種類がありますが、設定変更が必要な画面はGrokアプリ内・grok.com・X本体のプライバシー設定と複数存在し、単一のトグルでは完結しません。X上の公開投稿は、Grokを開いたことがない人でも、デフォルトで学習に利用される設定になっているとされています。xAI自身も、X内でGrokを利用する場合の設定変更についてはX Help Centerを参照するよう案内しており、Grok単体の設定確認だけでは不十分な点が、他のチャットボットと比較した際の大きな違いです。
中国製サービスの詳細——構造的に異なるリスク
Kimi・DeepSeekなど中国発のAIサービスは、米国系サービスとは異なる種類のリスクを抱えています。性能・価格の魅力は大きい一方、データの扱いに関する透明性の低さが繰り返し指摘されています。
Kimi(Moonshot AI):保存場所が製品によって異なる
2026年7月時点の第三者による分析では、Moonshot AI(Kimiの開発元)はシンガポールで消費者向けサービスを運営しているとされていますが、一般ユーザー向けのkimi.com・アプリのプライバシーポリシーには、データを実際にどの国のサーバーに保存するかが明記されていないと指摘されています。一方、開発者向けのKimi OpenPlatform(API)についてはシンガポールでの保存が明記されているとされ、consumer向け製品とdeveloper向け製品でポリシーの透明性に差がある点に注意が必要です。「明記されていない」ことは「中国に保存されている」ことの証明にはなりませんが、データ主権に関わる重要な情報がconsumer向けには不明である点自体が、判断材料として重視すべきポイントです。加えて、ChatGPT・Claude・DeepSeekとは異なり、consumer向けのKimiには製品内に学習利用のオプトアウト設定が存在しないとも報告されています。唯一の構造的な回避策は、2026年7月27日に予定されているオープンウェイト版の公開後、自社環境で動かす方法とされています。
DeepSeek:複数国で政府機関の利用が禁止
DeepSeekは中国国内のサーバーにデータを保存し、中国のサイバーセキュリティ法の適用を受けるとされています。2026年初頭時点で、イタリア・オーストラリア・台湾・韓国を含む複数の国・地域が、政府部門でのDeepSeek利用を禁止・制限しています。韓国の個人情報保護委員会(PIPC)の調査では、2025年1月から2月にかけての一時サービス停止期間中に、DeepSeekが約150万人分のユーザーデータを、ユーザーの同意なく中国国内の複数企業(TikTokの親会社ByteDance関連企業を含む)と米国の1社に転送していたことが指摘されています。この際、AIプロンプトに入力された内容そのものも転送対象に含まれていたとされ、当初はオプトアウト機能自体が存在せず、韓国当局の指摘を受けて追加されたと報じられています。
中国製サービス利用時の現実的な対応
中国製AIサービスの性能・コストパフォーマンスは魅力的ですが、以下の対応が推奨されます。
- 個人情報・機密情報・プロプライエタリなコード等は入力しない
- 公開情報の要約・一般的なプログラミングの質問など、情報漏洩の影響が小さい用途に限定する
- オープンウェイト版が公開されているモデル(Kimi K2など)については、自社のローカル環境・国内クラウド上で動かす選択肢を検討する
- 勤務先・所属機関が中国製AIの利用を制限している場合は、その方針に従う
この方針が当てはまりにくいケースと注意点
- 「大手企業のサービスだから安全」と一律に考えるケース:Anthropicの2025年の方針転換が示すように、大手事業者であってもプライバシー方針は変更されます。「これまで安全だったから今後も安全」という前提は成り立ちません
- 「オフにしたから完全に安全」と考えるケース:学習利用をオフにしても、データは一定期間サーバー上に保存され続けます。学習に使われないことと、データが存在しないことは別の話です
- Grokで1箇所だけ設定をオフにして満足するケース:Grokはアプリ内の設定・grok.comの設定・X本体のプライバシー設定という複数の管理画面にまたがっており、単一のトグルで完結しません。xAI自身もX内でGrokを使う場合はX Help Centerの設定も確認するよう案内しており、すべての管理画面を個別に確認する必要があります
- 中国製サービスの「無料・高性能」だけで判断するケース:Kimi・DeepSeekはコストパフォーマンスに優れる一方、データの保存場所の不透明さ・複数国での政府利用禁止という事実があります。性能だけでなく、扱う情報の性質に応じた判断が必要です
よくある質問
Q1. 一番プライバシーの扱いが安全なAIサービスはどれですか?
単純に「これが一番安全」と断定することはできません。米国系サービス(Claude・ChatGPT・Gemini・Copilot)はいずれもオプトアウトの仕組みを持ち、比較的透明性の高いポリシーを公開していますが、事業者ごとに保持期間・設定項目・商用と個人向けの扱いの差があります。企業として機密情報を扱う場合は、個人向けプランではなく商用プラン(Claude for Work・ChatGPT Business・Google Workspace経由のGemini・Microsoft 365 Copilotなど)を選ぶことが、共通して有効な対策です。なお中国製のKimiについては、一般消費者向けのkimi.comと開発者向けのKimi OpenPlatformとで透明性に差があり、製品ラインによって扱いが異なる点も踏まえて判断してください。
Q2. Grokの設定はなぜ複数の画面を確認する必要があるのですか?
Grokは「Grokとの会話データ」と「X(旧Twitter)プラットフォーム上の投稿・行動データ」という、独立した2つのデータソースから学習を行う仕組みになっているためです。X上の公開投稿は、Grokアプリを一度も開いたことがない人でも、デフォルトで学習に利用される設定になっています。設定変更が必要な画面もGrokアプリ内・grok.com・X本体のプライバシー設定と複数にまたがっており、xAI自身もX内でGrokを利用する場合の設定変更はX Help Centerを参照するよう案内しています。1箇所の設定確認だけでは、意図せず別の画面のデータが学習に使われ続ける可能性があります。
Q3. Kimiやその他の中国製AIは、業務では絶対に使うべきではありませんか?
一律に「絶対使うべきではない」とまでは言えませんが、扱う情報の機密性に応じた慎重な判断が必要です。データの保存場所が不透明であることや、DeepSeekのように無断でのデータ転送が実際に指摘された事例があることを踏まえると、個人情報・企業の機密情報・プロプライエタリなコードなどを入力することは避けるべきです。公開情報の処理や、一般的なプログラミングの相談など、情報漏洩の影響が小さい用途に限定して試すことが現実的な向き合い方です。
Q4. 会社のCopilotやGeminiは、個人で使う場合と何が違いますか?
大きく異なります。Microsoft 365のWork・SchoolアカウントでのCopilot利用や、Google Workspace経由でのGemini利用は、多くの場合デフォルトで学習利用が行われない設計になっています。一方、個人のMicrosoftアカウント・個人のGoogleアカウントでの無料利用では、この保護が適用されない可能性があります。会社から支給されたアカウントを業務で使う場合は、組織の契約に基づく保護が適用されているか、IT部門に確認することが確実な方法です。
Q5. 「個人情報」とAIに入力すべきでない情報は、法律上どう違いますか?
個人情報保護法上の「個人情報」は、氏名・生年月日などで特定の個人を識別できる情報、または他の情報と組み合わせて識別できる情報と定義されています。一方、AIサービスへの入力を避けるべき情報は、法律上の個人情報より広い範囲を含みます。企業の営業秘密・パスワード・APIキーなどは法律上の個人情報には該当しませんが、AIに入力すべきでない情報として扱われます。判断に迷う場合は「特定の個人・組織に不利益が生じうる情報かどうか」を基準にすることが実務的です。
Q6. プライバシーポリシーは今後も変わる可能性がありますか?
可能性は十分にあります。Anthropicは2025年8月に、xAIも2026年1月にX利用規約を更新するなど、AI業界全体で頻繁にポリシー変更が起きています。今回整理した各社の設定項目・デフォルト値も、今後変更される可能性が高いです。定期的に各社の公式なプライバシー設定ページを確認し、デフォルト設定が意図せず変更されていないかをチェックする習慣をつけることが推奨されます。
参照すべき公式情報
- Anthropic Privacy Center(Claudeのデータ利用・学習に関する公式説明)
- OpenAI Privacy Policy(ChatGPTのデータ利用に関する公式ポリシー)
- Google(Geminiアプリのアクティビティ・プライバシー管理ページ)
- Microsoft(Copilotのプライバシーに関する公式情報)
- xAI・X(Grokのデータ利用に関するプライバシーポリシー)
まとめ
- Claude・ChatGPT・Gemini・Copilot・Grok・Kimi・DeepSeekは、いずれもプライバシーの扱いが異なり、「AIは一律に危険」でも「大手なら一律に安全」でもないという前提を持つことが重要です
- 米国系サービス(Claude・ChatGPT・Gemini・Copilot)はオプトアウトの仕組みを持つが、Anthropicの2025年の方針転換が示すように、方針自体が変わりうる
- Grokはアプリ内・grok.com・X本体という複数の管理画面にまたがる設定を、それぞれ個別に確認する必要がある特殊な構造を持つ
- Kimi・DeepSeekなど中国製サービスは、データの保存場所の不透明さや、実際に無断でのデータ転送が指摘された事例がある。複数の国・地域で政府機関での利用が禁止・制限されている点も踏まえた判断が必要です
- 企業として機密情報を扱う場合は、個人向けプランではなく商用プラン・組織契約のアカウントを使うことが、事業者を問わず共通して有効な対策になる
次のステップ
- 自分が使っているすべてのAIサービスの設定画面を確認し、学習利用のオン・オフの状態を棚卸しする
- Grokを利用している場合は、アプリ内・grok.com・X本体という複数の管理画面をすべて確認する
- 中国製AIサービスを試す場合は、公開情報の処理など、情報漏洩の影響が小さい用途に限定する
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